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村田守弘×明石英司対談「寄附文化の醸成」(第3回)

2008.12.12 更新

今年の7月、KPMG税理士法人主催の『平成20年度税制改正セミナー』が行われました。そこで、平成20年
度税制改正により、従来以上の寄附金控除が可能となったとの説明がありました。
しかしながら、もともと寄附をする文化は日本にあるのでしょうか。私たちの生活に根付いているのでしょ
うか。
寄附と税金の関係・・・最近は「ふるさと納税」という言葉もよく耳にします。
そのあたりを、セミナーのスピーカーでありましたKPMG税理士法人パートナー明石英司氏に、公認会計士
村田守弘氏がズバリ聞きました。





6.企業のメセナ活動は、金持ちの道楽のように思われます。寄附文化の観点から企業のメセナ活動を
どう思いますか?





村田
そういう意味では、経営者もほどほどに豊かだとしても、欧米に比べるとうんと豊かではない。しかし、日本
では、企業が豊かであるということは、ある意味正しい。そうすると、企業が豊かであるがゆえに、金持ちの
道楽のような活動、俗にいうメセナ活動をするのだと思うのですが、企業のメセナ活動というのは、寄附とい
う観点、あるいは、文化への貢献という別の観点からどうお考えですか?


明石
私は、メセナ活動は、ぜひ伸ばしていってもらいたいものと考えています。財政的に余裕のある企業さんには、
いろいろな活動をやっていただきたい。


というのは、今までの歴史が明らかにしているとおり、文化を育成していく
ためには、多少、道楽のような、お金持ちが文化の担い手となる方々を囲っ
て育成してあげる、それだけの度量と器がなければいけないんだと思います。

ただ、これも前回のインフラの話と重なるのですけれど、日本の企業家の一
部には、明確な価値観に則してお金を使っているのかどうか、そこについて
よくわからないところがあります。
いわゆる、『メセナ屋さん』というか、文化活動の仲介屋さんみたいな方が
「今度、こういう催しにお金を使うと御社の企業イメージが・・・」みたい
な提案をされて、企業側は本当に支援をしたいというよりは、そうした話が
きたからそれにしましょうか、などという形になっているとすると残念なこ
とです。

ぜひ経営者の方には、文化的な営みに積極的に関与し、理解していただきた
い。そして、さらに文化を高めていってもらいたい。そうしたものが成熟化
社会に結びついていくんだと思います。


村田
個人のお金持ち、パトロンっていうのは、どうなのですか?タニマチっているでしょ?タニマチのしているこ
とは、広い意味で、寄附なんでしょうか?


明石
そうですね、でも、あれは税金のメリットとかないですしね・・・。


村田
そういう意味では、寄附は節税とは別だけれども、節税が伴っていると
みんなに受け入れられるようですね。本質は、違うんですけどね。


明石
本質は違いますね。
節税になるから寄附するっていうことと本当は違って、献金みたいな発想から、本当はこないといけないんで
しょうけど。でも、金額が大きくなってきたときには、そうすれば、もっと寄付できるわけですから。





7.ふるさと納税をもう少し具体的に教えて下さい。






村田
宮崎県知事の東国原知事がよく「ふるさと納税」と言って、世に取沙汰されておりますが、宮崎は私の故郷で
はないし、この「ふるさと納税」ってどんなものなのでしょう?
ちょっと混乱を起こしているので、もう少し具体的に教えていただけますか?


明石
この「ふるさと納税」ですが、寄附の所得控除をさらにパワーアップさせた、特別な制度です。これは、地方
自治体の税収の格差是正策の一つとされているものです。
その背景としては、地方出身者は18歳頃までは故郷で過ごし、都会の大学を出ると、そのまま故郷を離れ都会
に居ついてしまう。人間が0歳から高校・大学を出るまで、ふるさとから受ける公的給付の金額は1,000万円
を超えます。
すなわち、公立の幼稚園から小学・中学、公立は勿論、私立学校にも補助金が出ているわけで、それ以外にも
道路などのインフラの整備などをしていることを考えれば、地方自治体はそれだけのコストを負担している。
それに対して、いざ稼ぐ段になって故郷から出て行ってしまった彼らは、住民税を払っていないわけですよね。

もちろん、それは別に悪いことでもなんでもなく、彼らのご両親に所得があれば、ご両親が住民税を払ってい
るはずですからそれでチャラとも言えるのです。ただ、働き盛りの期間だけふるさとを留守にすることで、
丁度住民税の納税が空白になり、それが地方財政の不均衡の要因のひとつになっているのでは、という議論
だったと思います。
だったらそういう部分を捉えて、5千円の足切りと税額の1割というキャップを置いているのですけれども、
住民税の中から、恩義のある都道府県や地町村に住民税を納めればいいじゃないか、というのが最初のアイデ
アだったんです。

ただそこで、生まれ故郷に限らなくてもいいんじゃないですかという話も出てきて、最終的には何処の地方で
もいい、という話になってしまったのです。この際、住民税を2箇所に払うのは制度上混乱するので、
「納税」と呼びながらも、「寄附金」という形を採用することになっています。
たとえば、旅行に行って初めて訪れた場所に感動したとしますよね。その豊かな自然を護ることを支援したい
とか、その場所にある文化財の維持・育成を援助したいとか、その素晴らしい街づくりを支援したいから寄附
するとか。理由は何でも構いませんし、すべて個人の自由に判断は委ねましょうというものです。

それで、冒頭触れた「ふるさと」というのは、最初の議論から来ていますが、大阪にお住まいの方が東京の
オリンピック誘致に賛同すれば、東京都に地縁や血縁がなくても、ふるさと納税として東京に寄附することも
可能です。
逆に、ご自身の住所地の政策に異論がある方は、その住民税の一部を他の自治体に支払うことで、多少の抵抗
を示すことも可能になったのです。


村田
なるほど。
その「ふるさと納税」、個人の負担は5,000円といわれていますが、大体どういうところから、その金額がき
められたんでしょうか?


明石
この5,000円は、所得税の寄附金控除の負担金である5,000円からきています。
すなわち、従来から100円、200円の寄付だけで、いちいち所得控除とされても対応が大変ということから、
年間5,000円以上から所得控除のスタートとされていました。
一方、住民税の足切りはこれまで何と10万円だったのですが、ふるさと納税導入に際して、こちらも5,000円
に引き下げられ、この結果、まずは5,000円まではご自分でご負担ください、となったわけです。


村田
つまり、10,000円を出したら、5,000円は足きりされて、残りの5,000円が戻ってくるということですね?


明石
基本的にそういうことです。
じゃ青天井で、いくら「ふるさと納税」してもいいですかといわれると、これでは、今住んでいるところの公
的な給付に対して、住民税を払わないことにもなってしまいます。それはおかしいということで住民税の1割
を上限にしましょう、ということになったんです。
住民税というのは、現在税率が10%ですから、たとえば所得が100万円だとすると、単純化して言いますが住民
税が10万円で、「ふるさと納税」は、それの10%すなわち10,000円ということになります。
すなわち、ざっくり言って年収入の1%くらいがキャップになるのです。
もちろん、そこには所得控除など、いろいろなものが入りますので、必ずしもピッタリ1%ということではあり
ません。たとえば、4人家族の方でお父さんの年収が1,000万円だとします。「ふるさと納税」は1%なので、
10万円寄付できることとなります。
そうすると、95,000円が還付されるかというと、お役所の試算では約82,500円くらいしか返ってこない。これ
は、所得控除などの効果によるものです。ですから、年収1,000万円で4人家族であった場合、負担を5,000円
で抑えようとするなら、ふるさと納税をもうちょっと少な目の 70,000〜80,000円に抑えられた方がよろしい
かと・・・。


村田
地域に対して寄附もできるし、自己負担も5,000円で済むってことですね。


明石
また、東国原知事も言っているように、寄附をするとギフトがもらえることがあります。
たとえば、50,000円を寄付するとします。5,000円は自分で負担して、残りの45,000円は節税が得られるので
すけれど、プラス、寄附した先の名産品をもらえることもあります。これは全部の自治体ではないのですが、
一部の自治体では準備しています。いわばお返しということでしょうか。
これについて、総務省は、ちょっと違うんじゃないですか、と言っています。お返し目当てにやるのは本来予
定していなかったし、5,000円は本来負担するというお話で制度ができていましたので、ものをあげる、或いは、
よりいいものをあげるからそっちはやめて、こっちに寄附してください、という話をそれぞれの自治体でやり
あうようになるのは、全く見当はずれの方向に走る。
それは、おっしゃるとおりなんですけど、背に腹はかえられない自治体は、おやりになっています。
ま、それは、ある程度は、しょうがないでしょうし、まずは、そういうきっかけがあってもいいのかなと思い
ますけども。


村田
ある意味、そういうきっかけがあるのは、「ふるさと納税」もいいんじゃないかと・・・。


明石
ただですね、ちょっとおかしいかなと思うのは、たとえば所得が1,500万円ぐらいある方だと、1%弱として
も10万円の枠があるんですよね。そうすると、10万円を1つに寄附するんじゃなくて、5万円ずつ2箇所に寄
付すると、それぞれのところから、たとえば3,000円分のギフトをもらうこともできます。すると、5,000円
負担しているようですけど、6,000円分のギフトが来るので、黒字になっちゃうんです(笑)。
こうなってしまうと、ちょっとおかしいのかなと思いますね。


村田
おかしいかなと思う反面、10万円ぐらい寄付した人から見れば、2箇所に「ふるさと納税」するというのも、
ちょっと楽しい思い出になるのでは? それで、お金で故郷に貢献しているという事実もあるわけですね。


明石
はい、事実、これまで東京都などでは税収が多く一人勝ちになっているわけです。ふるさと納税が東京に警鐘
を鳴らすことになるのか分かりませんが、他の自治体の財政を助け、その地方の名産を広く日本中に配ること
で地元の経済環境をよくし、寄付した方も気持ちよくなれるというようないろいろな効果があると思います。





8.日本における寄附文化の醸成について、明石さんの意見をお聞かせ下さい。





村田
今日は、多岐にわたるお話をいただいたのですが、文化の違いというか、宗教における、われわれのマインド
セットの違いが1つあるということ、日本における寄附に関するインフラが整備されていないということ、そ
して、公益法人というものに対する取り扱いが、寄付を広く認めるような形になっていることなどをうかがい
ました。
そういう意味では、プラス・マイナス日本の社会が変化しながら動きのある中、寄附をしていこうという日本
文化をつくりあげていこうとしている上で、明石さんのご意見をお聞かせ下さい。


明石
志を持っている方は、増えているように思います。それは、1,500兆円といわれる個人資産を背景とした経済
的なゆとりに裏付けされている部分もあるのだと思います。そういう個人資産を多く持つ世代、家があり、
住宅ローンも返済していて、ある程度の年金ももらえるし、退職金もまだ手をつけてない、そういう世代の
方々が持っている財産を、どういう風に使っていかれるのか、次世代にどういう形で、つなげていくのかとい
う点においては、大きなチャンスですね。
大富豪の方々が先鞭をつけるというか、大きな寄附が相次いでくるといいのかな、と思います。もちろん、
ソニーの大賀名誉会長が軽井沢に音楽堂をつくったように、誰かが大きなピカピカの病院をつくるとか、なに
か大きな動きとかあると皆さんも動きやすくなると思います。
インフラもそれに応じて、整備されていく
と思います。
この日本で豊かな老後を過ごされている皆さんが寄付の担い手として動かれ、それが次の世代を共感させ、次
第次第に文化が定着されていければ素晴らしいですよね。
一方で、われわれ庶民も自分の所得の一部を社会のために活かしたいと思いながらも、それを託したいと思え
る信頼できる寄附先が不足しているように思います。
透明性の高い公益法人の登場とインフラの整備によって、広範囲の寄附文化が醸成されるといいですね。


村田
そうですね。
次世代にどういう形で自分達の文化を伝えていくかという使命感が、いま豊かな世代に寄附をさせるインセン
ティブを与えると思います。そういう意味では、大きな寄附をする人が先ずいて、それに続いて、今度は、普
通の人も寄附をしていく。その流れが、文化の継承と共に、少子高齢化社会における次世代に対して、より大
きな負担を与えない、応分の負担のみを求める、つまり、フェアな社会をつくるんだ、という理由付けが寄附
文化の醸成のためにはいいと思います。
少子高齢化の下、フェアな社会を作る上では、税金よりも寄附という方が効率的であるということ今日の議論
で明らかになったと思います。寄附に関して、宗教のしばりがあまりない日本ですから、今日の議論は非常に
有意義でした。

どうも3回にわたり、有難うございました。


明石
有難うございました。


(第3回目、最終回終了)




対談者

明石英司
KPMG税理士法人 パートナー
中央大学大学院客員教授
KPMG税理士法人
村田守弘
村田守弘会計事務所 所長
青山学院大学大学院客員教授
村田守弘会計事務所